夢千代日記
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七回忌と心中のかたわれの金魚に子供がいたことを知り引き取りにきたのでした。 はる家に木原先生が十八才の時子を連れて来ました。身寄りがなく、少し左足が不自由なようです。 この子が生きていくためにもこの「はる家」で面倒をみてほしいと夢千代に頼み込むのでした。 旅役者の一座が来てから菊奴は落ち着きがありません。 以前もそうだったのですが今回は、若手二枚目の春川辰次郎こと室川辰夫を贔屓にします。 はる家で旅役者のことが話題にのぼります。その話になると着付けをしていたスミが不機嫌になります。 過去に知られたくない何かがあるのでしょう。
ここでは処置が出来ないので鳥取の大きな病院に行くように勧めるのですが頑として受け入れません。 そんな時、山根の奥さんが子供を連れて蒸発したという報せが入ります。 仕事と家庭と両立出来ない、生きるのが下手な男の選んだ道です。 煙草屋旅館では、表日本の大手ホテルチェーンが傘下に入れようとひと騒動がおきており、苦しくても昔ながらの旅館を維持したい女将と近代化を図りたい息子の泰男。 泰男は、以前この土地を嫌がって東京に出て行ったのです。 その時、左千子も一緒でした。でも帰ってきたのは悲しい過去を背負った左千子(夢千代)ひとりでした。 なにも悲しいのは夢千代だけではありません。子連れの金魚もそのひとりです。 橋爪母妻が忘れ形見と思っていた子供は人違いだったのです。 この子供は、生きる希望を失った金魚のために木原が連れてきた子供だったのです。 その木原は、誰にでも親切で人一倍優しく医者の鏡のような人なのですが無免許でどうやら偽医者のようなのです。 ある朝、子宮癌の千代春と連れ立ってこの町を静かに出ていきます。 同じ日の午後.菊奴が贔屓にしていた旅役者の室川辰夫も雀と手に手を取って姿を消します。 後で判ったのですが木原は、子供のいない人に赤ちゃんの斡旋もしていたのです。 仕事一筋の山根は、それらの証拠を焼き捨て、そして刑事を辞めたのです。
そして、何度もすれ違いになりながらも夢千代は波止場のスナックで市駒と出会います。 仏壇を抱える市駒の姿を信じていたのですがやはり連れ合いを殺していたのです。 仕方なくこうなったのです。 人の人生は、苦しくて悲しいことばかりではありません。時子が晴れて芸者になったのです。 小さな夢と書いて「小夢」です。 余部の鉄橋を渡って表日本へ倖を夢見た人、夢が砕けて辿りついた人、それぞれです。 山陰の小さな温泉町「湯の里温泉」に厳しい本格的な冬がやって来ます。 それでもここで生きる人たちは、春を望みながら「てんでしのぎ」ですが肩を寄せ合って生きる道連れがいます。 -(夢千代日記より)-
============= 夢千代に残された時間は、あと2年。「誰かを好きになりたい、好きになってほしいと不意に心の底からこみあげてくるのです。」神戸の病院から帰る列車の中で夢千代は行く宛てのないひとりの家出少女と出会い、気になって連れて帰ったのです。
藤森刑事課長がはる家を訪ねた時、少女のカバンの中から西洋ナイフと通学定期が見つかります。
俊子を探しに出た夢千代は、温泉劇場で上村の描いた砂丘と芸者の絵に出会います。 俊子を連れて夢千代は上村に会いに行くのです。 そして事件の真相を知り、上村の生徒を思う温かい心を感じるのです。 幼すぎた愛は一方的で乱暴すぎたのです。 こんな少女も心が渇いていたのです。 俊子は、迎えにきた親に引き取られて帰ります。 あと2回の春しかない夢千代は、上村に絵を描いてもらうように頼みますが身体の具合が良くなる春まで待ってもらいたいのです。 「浜タンポポの花が咲くまで待ちます、そして毎日手紙を出します。」と云う上村。 彼はイカ釣船で漁師をしながら来年の春まで待つというのです。 あと2年しかない命に上村を杖にしてしまうかも知れないと迷う夢千代のもとに何通もの手紙が届きます。 すがりたい、すがってもいいという気持ちでようやく返事を書く夢千代。 はずむ心でポストにそっと手紙を入れました。 警察署に上村の乗ったイカ釣船が遭難したという報せが入りました。 すぐ彼が居た港町に夢千代は駆けつけます。 彼の下宿の小さな机には夢千代の出した手紙が封も切らず置いてあります。 ひとあし遅かったのです。 ・・・砂丘をひとり歩く夢千代にたよりない風が通り過ぎていきます。 -(続夢千代日記より)-
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