31・長い名前
これも佐治谷の話だが、ある家の隣の家に男児が生まれて、名は何とつけたかと聞くと、
「庄屋さんに頼んでつけて貰った。私の名をやって、『のどかなるいましめの松右衛門』とつけた」
という。
わしのところも出産が近いので、庄屋さんに頼んで、隣に負けず長い長い名をつけてもらおうと思った。
一方、隣の家では、庄屋さんにつけてもらった名を紙に書いてもらい、使いに持たせて嫁の実家にやった。
嫁の実家はだれも文盲だったので、お寺の和尚さんに読んでもらうと、
「大変だ。『咽喉(のど)がなる、いま死にめの松右衛門』と書いてある」
というので、あわてて行って見たら、子供が生まれて大よろこびしているところだった。
月満ちて男児が生まれたので、さっそく庄屋さんに行って、名をつけてくれと頼むと、
「『テーキ』というのはどうだえ」
「へえ、ええ名前でどざります」
「『ハリマのベットウ』はどうだ」
「へえ、それも良い名でどざります。いま言いなったのを、みんな紙に書いてみてくんなれ」
というので書いてみると、
『テーキヤテーキヤテキテキヤテースリコンボハリマノベットウソペットウチャワンポーズノヒヨコ助』となった。
赤ん坊は大きくなり、四・五才の頃、隣の松右衛門と遊んでいると、ヒヨコ助が井戸に落ちた。
松右衛門がヒヨコ助の家に駆けこんで、
「テーキヤテーキヤテキテキヤテースリコンボハリマノベットウソペットウチャワンポーズノヒヨコ助が、井戸にはまったえぇ」
と言って、みんな大騒動で駆けつけて引き上げたが、
名前を言うのに暇がかかったため、かわいそうにその子は死んでいた。
※参考文献
喜尚晃子 「但馬・温泉町の民話と伝説」1984年より
温泉教育研究所 「温泉町郷土読本-温泉町誌-」1967年より
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