16・猟師の猫
人間の歳に数えたら九十才ほどの猫と暮す猟師がいた。近頃は鼠を取らず、猟師の獲物を食い荒す。
猟を生活の糧にしている猟師にとって、猫に食いちぎられた獲物など売ることもできず困り果てていた。
猟師は永年一緒に暮してきて、家族同様の猫だったが、背に腹はかえられず幾度となく山に捨てたが、
いつの間にか舞い戻ってくるくり返しだった。
ところがある日、いつもの通り、猫が獲物を食い荒し、あまりのひどさに猟師は烈火のどとく怒って猫を打った。
「ギャア!、ギャア!」
描はものすごい眼で猟師をにらみつけた。その眼の気味悪さ。
思わず打つ手をとめたが、それが後日、思いもよらぬ恐ろしいめに出会う原因になろうとは夢にも思わぬ猟師だった。
それから数日後の朝、猟師は猟に持っていく弾を作っていた。
強い炭火に鍋をかけ、鉛をとかして、コロコロと弾をまるめていた。
--それを猫がじっと喰い入るようににらみつけていたのを知らず、猟師は作った弾を袋につめた。
弾袋を腰に、猟師は山へ出かけた。
ガサッとかすかな音がしたのでよく見ると、山石の上に見馴れぬ小さな獣の影を見た。
銃をかまえて、「ズドーン」と一発。
弾は見事に命中したが、
「チャリン!」高い音がした。
弾が何かに当って流れたのだ。
猟師は次の弾を、一発、また一発と続けてうった。
獣が岩角から顔を出す。
「おのれ、おのれ」と、猟師が弾をうつが、うつはしからそれてしまい、とうとう今朝作った弾をみな使い果した。
と岩角から躍りだしたのは猟師の家の猫で、飼い主の猟師めがけて、「ギャオ!」とおそいかかってきた。
猟師は咄嗟に身につけていた守り弾を銃にこめ火をつけた。
「ズドン!」今度は確かな手応えがあって、硝煙の中で猫がもんどりうって倒れた。
猟師は不思議でたまらず、先刻、猫が隠れていた岩角に行って見た。
なんと猫は、鉄釜の蓋で猟師の撃つ弾をさけていたのだった。
※参考文献
喜尚晃子 「但馬・温泉町の民話と伝説」1984年より
温泉教育研究所 「温泉町郷土読本-温泉町誌-」1967年より
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