28・児ごろし
狐が人を化かすときには、そばに近づいて眉毛を数えて神通力を得てから化かすのだという。
だから、眉につばをつけると、眉毛が寝て数えられなくなるので、化かされぬという。
昔、あるところに知恵自慢の男がいた。
その頃、たちの悪い狐がでて、しきりに人を化かした。
男は、
「わしは決して化かされん」
と、言って自慢していた。
この男が、ある夜更けに、橋を通りかかると、下で狐が、アオミドロをかぶって石を抱えて、こちらに来るのを見た。
「こいつめ」
と、思って石を投げつけると、うまく当ったが、当ったのは母親の抱いていた赤ん坊で、赤ん坊は死んでしまった。
母親は泣きながら男のそばに釆て、子供を元通りにして返せという。
男が、
「なんだ、狐のくせに、何ぬかす」
と、言うと
「人の子を殺して何を言う。狐かどうかよく見てくれ」
と、いうので、あわてて眉毛につばをつけてから子を受取ってみると、まぎれもない人間の子だった。
そこへ坊さんが通りかかって、
「なんということをしたのだ。わしの弟子になって、菩提を弔へ」
というので、子供を抱いたまま、そこで髷をといて髪をおろしてもらった。
川風がひんやりするので頭をなでて見ると、髪はだんだらに食い切られており、ひざの上に石を置いていた。
はっとして廻りを見ると、坊さんも母親もいなかった。
※参考文献
喜尚晃子 「但馬・温泉町の民話と伝説」1984年より
温泉教育研究所 「温泉町郷土読本-温泉町誌-」1967年より
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