6・猿とひきがえるの餅つき
猿とひきがえるが、もんやあで(仲よく)餅を搗いていたら
餅がおおかた搗き上がったころ、猿は、ひきがえると半分に分けるのが惜しくなってきた。
それで、
この臼を転がして、先に餅を見つけた者のにしよう」
と言うと、臼をごろりと転がした。
臼は、谷底へごろごろ落ち出した。猿はいそいで臼について走りおりた。
ひきがえるは仕方なく、のそのそと降りていると、木の枝に餅が引っかかって、ぶら下がっていたので、
枝から垂れ下がる餅を、大口あけて食っていた。
猿は谷底に留まっている、臼の中を見ると餅がない。
臼の底に少しこびりついているのを爪でかきおこして食い、臼の落ちてきたあとを、
キョロリ、キョロリと探しながら上がると、ひきがえるが小枝から垂れ下がる餅を食っている。
「ひきどの、ひきどの、その餅を、ちいとくんないの」
というと、ひきがえるは、
「こんたは、足が早やあだけえ、臼についておりて、仰山食っただらあけど、うら、足が遅えだけえ、
ここに落ちとるのを、ちいとだけど、こらえて食いよるだがの」と言っている。
「下まで降りて見たけど、ありませなんだ。あっ、今たらけるがの、そこを、ちいとくんなえの」
と言っても、
「ああ、たらけるとこから、たんぶりしょ」
と言って、一臼餅をみんな食ってしまったので、腹がでぶっとふくれ上がった。
猿が腹を立てて、木の枝でひきがえるの目を力まかせに突き上げたから、ひきがえるの目は上を向いてしまった。
※参考文献
喜尚晃子 「但馬・温泉町の民話と伝説」1984年より
温泉教育研究所 「温泉町郷土読本-温泉町誌-」1967年より
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