新温泉町
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3・因幡堂

「兵庫県の背骨」といわれる中国山地には、畑ヶ平や仏頂山などの海抜千メートル以上の山々がつらなり、
ブナやトチなどの大木が生い茂っていました。昼間でもうす暗い木立の中を、
但馬と因幡を結ぶ「けものみち」のような細い道がつづいていました。

因幡との国境に近いところに地蔵さまを祀った小さなお堂があり、雨や風に痛められて、粗末な建物でしたが、
この道を通る旅人には雨が降ると雨やどりしたり、ここで休んでべんとうをたべたりして、
ずいぶんありがたいお堂だとよろこばれていました。

ところがいつの頃からか、このお堂に「怪物が出て人をとって食う」という噂がひろがり、
人通りがばったりとだえてしまいました。
このことを聞いた因幡鳥取藩の剣術の達人が二人で相談して怪物退治に出かけました。
この堂に来てみると、ひっそりとした堂の板の間には盲目の琵琶法師が休んでいました。
それはみすぼらしい白衣を着て、頭をテカテカそり上げた年寄りですので、
二人とも「これはおかしい」と目くばせし、何くわぬ顔でそばに座り、
「琵琶を聞かせてくれ」
と頼んでみました。
琵琶法師はすぐ琵琶とり上げて、かきならしながら琵琶歌をうたい始めました。
二人ともしばらくそれに聞き入っていましたが、そのうちに一人の武士は立ち上って
堂のそとのようすを見るため、出ていきました。

ところが、そのとき、どうしたはずみか法師の持っていたバチが手から落ちて、
スルッと床板の上をすべり、座っている武士の目の前でとまりました。
盲目の法師はそのあたりの床の上をなで回してバチを探しています。
「拾ってやろう」
と武士がバチを拾い上げると、そのバチは手にねばりついてしまいました。
あわてて左の手でとろうとすると、その手もくっついてしまいました。
その両手の間から透き通る細いクモの糸が何十何百となく舞い上り、粘っこくからだに巻きついてきました。
ふりはなそうともがきながら法師を見ると、突然、熊のような大グモが一匹、
目を光らせて武士をめがけて襲いかかってきました。
「助けてくれ!」
必死の悲鳴を聞いて飛び込んできた武士にクモが突進して行きました。
「エイッ」
するどい気合いで、抜く手もみせず切りつけた武士の刀は、「カツッ」と大きな音がしただけで強くはじき返されました。
「目だ!」
武士は心の中で叫ぶと、すばやく刀を逆手に取りなおし、からだごとクモにぶつかりました。
「グサッ」と刀はクモの目の奥深くつきささり、
「やったぞ!」武士がそう叫んで刀を抜き取ったときは、クモは八本の足をちぢめて丸くうずくまっていました。
そのとき、やっとクモの糸をふりほどいたもう一人の武士も来て、二人でめった打ちに突きました。
クモはもう身動き一つしません。
だが、それでも安心できませんので、とうとうこの堂に火をつけて建物と一緒に焼きはらってしまいました。
それから後は怪物も出なくなりましたので、またこの道を旅人が通うようになりました。

村人は旅人たちのために、新しいお堂を建て、因幡の武士の偉業をたたえ、
但馬の国にありながら、「因幡堂」と名をつけたということです。

※参考文献
 喜尚晃子 「但馬・温泉町の民話と伝説」1984年より
 郷土の民話但馬地区編集委員会 「郷土の民話-但馬篇-」1972年より


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