新温泉町
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10・化け競べ

狐は、自分より上手に化けるものはおるまいと、かねがね自慢するだけあって、
時には一つ目小僧、時にはかわいい娘にと、たちどころに化けて技を見せびらかせた。
森の動物たちは、そんな狐に、ぞっとさせられたり、くやしがったりするのだったが、
狐が森で一番の化け上手であることに異存はなかった。
それなのに、狐は、のろまな狸を化け仲間に加えることに不平だった。

ある日、狐は狸に化けくらべを申しこんだ。
「狸くん、五月五日、菖蒲の日、お昼まえにぼくを訪ねてきてくれ」
狸は約束の日、狐の家に行き、
「狐さん、狐さん」
と呼んだが返事がない。仕方なく戸を開けて家の中に入ってみると、机の上に出来立てのぼたもちが皿に盛られ、
ほかほか湯気が立っていた。
狸はおいしそうなぼたもちを見ると、急にお腹がぐうっと鳴った。
「狐さん、おるすに悪いけど、ぼたもちを一ついただくよ」
狸がぼたもちを口に持っていこうとすると、
「狸くん、無茶するなよ」
と、ぼたもちが言った。
「あれっ、しまった。狐さんが化けていたのか」
狸はしょんぼりして、
「負けた、負けた。狐さんにはとてもかなわん。でも今度は、ぼくの番だね」
狸は、十日に蒲生峠で待っていてくれと狐と約束して帰っていった。

約束の日がきて、狐が蒲生峠に行ってみると、因幡の殿様のお国人りで、
「エイホー、エイホー」
「下にぃー、下にぃー」
と、大層な行列がくる。

旅人に化けた狐が、
「いやぁー、見事見事」
と呼ばわりながら殿様のかごに近づくと、
「くせ者!」

「出会え、出会え、くせ者を逃すな!」
と口々に叫んで、武士たちが刀を抜いて切りかかった。
「あっ、狸くん、僕だ僕だ、危ないじゃないか」
と狐があわてたが、
「不届き者!」「たわけ!」と、武士たちがするどい太刀先で狐の旅人に切りこんだ。
狐は飛び上がり、もんどりうちながら、命からがら薮に飛びこんだ。

狸はその様子を、松の木の上で、
「狐さん、それは本物の大名行列だよ」
と気の毒そうに眺めていたとさ。

※参考文献
 喜尚晃子 「但馬・温泉町の民話と伝説」1984年より
 温泉教育研究所 「温泉町郷土読本-温泉町誌-」1967年より

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生涯教育課|新温泉町教育委員会
〒669-6792 兵庫県美方郡新温泉町浜坂2673-1
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温泉公民館
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