新温泉町
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18・ばけ娘

夏のさかり、
「おっ、狐が嫁入りしているな」
と、村の頓知者の爺さんが空を見上げてつぶやいた。そのとき、かすかな水音がしたのでふり向くと、
なんと、すぐ目と鼻の先の谷川で、一匹の狐が一心にアオミドロを水中からかき上げては、
頭からかぶっているではないか。

爺さんはふとからかいたくなり、
「おいおい、上手に化けられるかえ」   
と声をかけてやると、        
「えいっ」と若々しい女の声がして、目の前にすっと立った。
「おっ、こりゃ、どえらい美人だ」
爺さんはおったまげた。

狐は、ちょっとやせ形で、口もとはすこし出ているが、こばれるばかりの微笑をたたえた娘に化けていて、
いま洗ったばかりの黒髪を肩になびかせている。

爺さんが、
「おいおい、それ、その尻っ尾を隠さにゃ、べっぴんが台なしだぞ」
と狐をぎくっとさせ、
「ホホホ、ご冗談を・・・」
と狐は不安そうに着物の裾を気にする。
爺さんはしめたと、
「あのな、いっぺん(一度)で、尻っ尾を上手に隠すやぁを教えたらぁか」
とたたみかけると、狐はすっかり乗せられて、
「教えて、教えて」と飛びついてきた。
爺さんはもったいぶって、
「町に出て、女郎屋の二階から飛び降りたら、化け度胸がついて上手になるぜ」
真にうけた狐が、
「おねがい、おじいさん、私をその女郎屋の二階につれて行って」
「よしよし、連れていってやるぞ」
ということになり、翌朝早く、爺さんは、狐の娘を連れて鳥取の町に出かけた。

道中、娘が足を痛めないかと爺さんは心配だったが、道行く人が振り返るはど美しい娘は、
うきうきと楽しげについてきた。

さて、町の女郎屋につくと、爺さんは娘を奉行させる相談をまとめ、前借金を受けとると、
ほくほくしながら村へ飛ぶように帰り、
「ばあさん、早う床を敷いてくれ」
と、大いそぎで寝床にもぐりこんだ。
「じいさん、どがいしただ」
と婆さんが言うと、
「わけはあとで話すけえ、鉄びんに場をわかしてくれ」
婆さんが沸した鉄びんを寝床に引き込み股の間に抱いて寝たふりをした。

ところで一方、宿屋の主人は、良い娘が来てくれたと喜んで、
「さぞ、くたびれたことだろう。しばらく休みんさい」
と、狐の娘を二階の部屋で休ませた。
早朝からの長旅で、疲れていた娘は、前後不覚に眠りこんでしまった。

宿屋の主人は、美しい娘の様子が気になってならず、そっと部屋の障子を細めに開けて中をのぞき、
「あっ!」と声を上げた。
そこには、大きな狐が寝息をたてて眠りこんでいて、あの美しい娘の姿はない。
「お-い、狐だ、狐だぞう!」
主人の叫びで、皆が駈けつけた。

狐はびっくり仰天、人々の足元をくぐりぬけ、二階の窓から飛び下りて、一目散に山へ逃げていった。
「おのれ、だましよったな」
女郎屋の主人はかんかんになり、村の爺さんの家へ談判に出かけた。
「やい、じいさん、ひどいじゃないか」
と怒鳴りこむと、爺さんは寝床の中でうんうんうなっていて、
「実は、この間から持病が出て、この通り寝こんどりますだ。めっそうもない話です。
まあ手を入れて見てくんなれな」
というので、主人が床の中に手を入れてみると、爺さんは油汗を流すはどの大変な熱。

「やれやれ、あのじいさんも狐だっただか」
と宿屋の主人はくやしがりながら帰っていった。

 ※女郎=(「上購」の変化という)「女性」の意
      の古語的表現。狭義では、遊郭などに居た遊女を指した。ここでは、遊女屋の意。

※参考文献
 喜尚晃子 「但馬・温泉町の民話と伝説」1984年より
 温泉教育研究所 「温泉町郷土読本-温泉町誌-」1967年より

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