新温泉町
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12・スッペン太郎

山また山の狭間にある村人たちは、毎日の仕事も手につかず、額をあつめてはヒソヒソと相談するのだった。
どこからか狒狒(ひひ)の群が渡ってきて、作物を荒すばかりか人に襲いかかり 大怪我をさせたり、幼い子たちをさらっていく。

村人たちは、
「どがいしたもんじやのう」と、恐怖におののくばかりだった。

弓矢を射ても矢がはじき飛ばされる始末。
落し穴を掘ったり、わなを仕掛けてみたり、ありとあらゆる工夫をこらして、
なんとか退治する方法はないかと知恵をしぼるのだが、いよいよ狂暴さを増すばかり。

今日も村人たちは寄り合って、ため息をつきながら狒狒退治の相談を続けるうち、若い猟師が思い決した面持で、
「わたしが、狒狒の棲家をつき止めてくる」
と言い出した。

みんなが心配して止めるのを振り切って、その夜、村を襲い引き上げて行く狒狒の後を、こっそりついていった。

<こうなったら、わたしの命を投げ出しても村を守らねば・・・>

若者は、全身汗まみれになって、狒狒を追い駆けた。
狒狒たちはどんどん山奥に入り、とある岩場に辿り着くと、一匹の号令を合図に、それぞれが獲物を置くと、
杉林から杉やにを取ってきて、体にぬりつけ、砂の上に転がった。
幾度もその動作をくり返して、体に新しい砂をがっちりつけると、今度は親分らしい大狒狒の前に集まって、
唄ったり踊ったりしはじめた。

不思議だったのは、
「丹後の奥の、スッペン太郎に聞かせなよ」
と言っては囃すことだった。

猟師は「しめた!」と、さっそく丹後の国に、スッペン太郎を探しに旅立った。

丹後に着いた猟師は、誰かれの区別なく、
「スッペン太郎というお人を知りませんか」
と尋ね歩いたが、

「さあ、スッペン太郎、ねえ。そがいな人、知りません」という返事ばかりだった。
とうとう山に迷い込んだ猟師は、運よく樵の家を見つけ宿をかり、そこでもスッペン太郎の話をすると、
その家の主人は、
「スッペン太郎という人は知らないが、この家で伺っている私の犬の名も、スッペン太郎といいますだ」
という。

「ひょっとして、スッペン太郎は犬かも知れん。ぜひ、その犬に会わせてくんなれ」
猟師が会ってみると、見るからにたくましい犬で、仔牛ほどもある大きな犬だった。
猟師は主人に、自分の村のことを話して、この犬を借りて帰ることにした。

何が近づくと、犬はするどく眼をいからせ山に向かってうなり声を上げ、やがて駈け出していった。
犬は山の樹木の問をひたむきに走り抜けて行く。猟師も遅れじと大の後を追って走った。見覚えのある岩場の岩室が見えた。

「ギャア!」
突如狒狒のけたたましい叫び。

猟師が息を切らせて駐けつけると、早くも一匹の狒狒がのどから鮮血を吹き上げ、ぶっ倒れている。
狒狒の群は不意を襲われ右往左往。
スッペン太郎は、襲いかかる狒狒の群を相手に死闘をくりひろげた。
手出しも出来ず、呆然と見守る猟師。

スッペン太郎はとうとう狒狒をみんな倒してしまったが、自らも傷ついて倒れたまま、起き上がることができなかった。

※参考文献
 喜尚晃子 「但馬・温泉町の民話と伝説」1984年より
 温泉教育研究所 「温泉町郷土読本-温泉町誌-」1967年より



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