9・熊蝉
夏のさかり、樵がたった一人、深山で大木を切っていると、思いがけなく早く、
「ズズズズズェーン」
大きな音がして木が倒れてきた。
あまり不意だったので、樵は逃げる問がなく、足が大木の下敷になつて、苦しみぬいて死んでしまった。
村人は樵が帰って来んので捜し廻ったが、何しろ畑ケ平みたいな大深山のことでとうとう見つけられなかった。
樵の魂はいつしか蝉になって、夏になると、
「シャ、シャ、シャ」
と鋸の音をまね、次には、
「よう起きん、ヨーキン」と鳴くのだという。
※参考文献
喜尚晃子 「但馬・温泉町の民話と伝説」1984年より
温泉教育研究所 「温泉町郷土読本-温泉町誌-」1967年より
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